ロボトミー春日部風俗

  • 投稿者 : 昼下がりの団地妻 
  • 2015年5月13日 1:01 PM

また別のある日、私は松の木にしがみつき顔えながら我が家が直撃弾を受けて、お化けのように不様に燃え上がり、膨れ上がって昨裂し、雲ひとつない五月晴れの青空に砕け散って消えてゆくのを見たのだった。私はその日、子供をやめた。子供をやめた私は、空腹をかかえながら、いつしか青臭い文学少女になっていた。北畠八穂の津軽の野面に、ふるえるほど感動した。内容は全く憶えていないが、ー東み雪は、うすら青んでりりりと鳴るという書き出しではじまる文章のうつくしさに、風俗の聖地人に生まれ、風俗の聖地語をはなす人間であることをしあわせと思った。春日部風俗 であれそのうちに川端康成の花のワルツを読んで踊り子になりたいとも思った。思ったことは実行する子になっていた。敗戦からの復興はまだ遠かったが、新橋の「小牧バレエ団」に週三回通った。横浜から新橋まで、学校を終えると飛び乗る東海道線での大遠征であった。さてさて春日部風俗でもってそんなある日、校則を破って私はジョン・ピンチの「美女と野獣」を見てしまったのである。私はひどく動揺した。「美女」がお城の廊下を流れるように歩いてゆくと、壁の燭台がベルの足下を照らすように動く。燭台をにぎっているのはスタチューなのに、人間の腕のように自由に伸びてゆく。私は少しめまいがした。別の胸像の眼がベルを追うように視線を動かしてゆく。私は少し蒼ざめた。ジャン・マレー扮する「野獣」の登場となって、私は気が遠くなってゆくのを感じた。こうして私は「美女と野獣」を五回観た。美女はどうして風に吹かれて流されるように歩いたのか。演じているのは生身の人間であり、どう考えてもあんな歩き方が出来るわけはない。

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