言語聴覚士も風俗西川口駅

  • 投稿者 : 昼下がりの団地妻 
  • 2015年5月29日 12:50 PM

ブロックの角をまわりこもうとする彼の前で、銀色の蛾がヘッドライトのなかをさっとょぎり、光線を浴びてつかのま大きな炎の襖のようにギ堂わりときらめいた。それはさっき、ガソリンスタンドの照明のなかを旋回し、不運な蛾を宙でつか土雪え生きながら貧(むさぽ)り食ったコウモリを思い起こさせた。深夜をかなり過ぎるころ、ローターはようやくうとうとしはじめた。眠りはさながら深い坑道のように、さまざまな夢の鉱脈がそこからリボンのように枝分かれしてのびだしていく。よく言われる西川口駅ではあるがどれひとつ楽しい夢ではなかったが、目をさまさせられるほどグロテスクなものもなかった。西川口駅 風俗街にはいま彼はちょうど、ある谷の底に、両側を険しく登肇不可能な絶壁にはさまれて立つ風俗マニアの姿を見ていた。たとえ斜面がさほど急でなくとも登ることはできなかっただろう、それはなんだか奇妙な、やわらかく白い頁岩(けつがん)からできており、ぽろぽろと崩れやすく不安定なせいで足場にはなりそうもない。その頁岩の発散するかすかな、白いカルシミンのような輝きが、唯一の明かりだった。はるか頭上の空は暗くて月はなく、深いけれども星は見えない。ローターは休みなく、長く狭い谷を端から端まで移動してはまたひきかえしながら、なにやら得体の知れない不安にさいなまれていた。そのときふたつのことに気づき、彼の首の後ろの細かな髪の毛がざわざわと逆立った。

この記事のトラックバックURL :

この記事へのコメント

コメントはまだありません。

現在、コメントフォームは閉鎖中です。

office-inoue.com